大型公共施設見える化とは?
八戸市が2023年1月に公開した「大型公共施設見える化」とは、八戸市の図書館や美術館など、大型公共施設に係る維持管理コスト等の情報について公表したものです。簡単に言うと収入はいくらだったか?光熱費など維持費にどれくらいお金をかけたか?税金はどれくらい投入されたか?を公表したという事です。
これは思い切った公表だと思います。一般的に大型公共施設は単純に収入(一般財源を除く)から支出を引くと、大抵は赤字になっている事のほうが多いです。黒字になるような施設であれば民間が参入するでしょうし、赤字になる事が多いが税金を投入してでも市民の生活に必要であるものが公共施設になっている事が多いでしょう。
公共施設に対する理解を得るために、八戸市は「税金が多く投入されている」というイメージを持たれるリスクがあるにも関わらず、このような公表をしました。
今回の記事では公表されているデータをさらに深堀してみます。八戸市の英断に敬意を表し「なんだ!こんなに税金がかかってるじゃないか!」という単純な見方は無しにしましょう!「公共施設はたいてい赤字になるものだ」と言う事を前提とした上で、そのかかった金額がどれだけ市民の役に立っているのか?つまり「費用対効果」はどれだけあるのかに着目して分析したいと思います。
「費用対効果」の考え方は、人それぞれ価値観により違います。100人いたら100通りの考えがあっていいはずです。ここでは私の分析を書きますが、多くの方の考えが八戸市に伝わる事を市は期待しているのではないでしょうか?是非皆さんで考えてみましょう!
公開された内容
さて実際に公開された内容を見てみましょう。公開された施設は以下です。
①八戸市庁
②八戸ブックセンター
③八戸市美術館
④八戸ポータルミュージアム(はっち)
⑤八戸まちなか広場(マチニワ)
⑥八戸市長根屋内スケート場
⑦八戸市総合保健センター
⑧八戸市埋蔵文化財センター是川縄文館
⑨八戸市立図書館
⑩八戸市博物館
各々の施設の支出・収入を下記のような表で公開しています。(下記表は1施設の例です)
支出は大きく「人件費」「企画費」「維持管理費」で分けています。
収入は「使用料」「その他」「一般財源」で分けています。「使用料」は入場料や施設を借りたときの料金です。「その他」はネーミングライツ等の広告収入などがあり、「YSアリーナ」や「プライフーズスタジアム」などの名前の使用料の事になります。
公表された表では、収入と支出が全てイコールの金額になっています。これは赤字分が「一般財源」で補われているからです。簡単に言うと赤字分が「一般財源」という名前で「市税」や「地方交付税」が使われている、要は「一般財源」=「税金」と見て頂ければよいでしょう。
八戸市の考察
全ての施設の収入・支出を公開した後、八戸市は最後に複数の施設の比較表をまとめ、考察を複数出していました。例えば以下のようなものです。
例1)人件費の比較
各々の施設で働いている職員の人数、人件費が公開されています。「はっち」や「是川縄文館」が多いという表になっていますね。
例2)維持管理費の比較
電気・水道などの維持管理費です。圧倒的に屋内スケート場が多いです。これは当然で氷のリンクを維持するためには、リンク面の温度管理に膨大な光熱費がかかるのは容易に想像できます。
これ以外にも施設毎の「企画運営費」や「委託料」などの比較表も公開されています。公開された情報はここまでです。
さてここで質問です。
これを見てあなたの欲しい情報はありましたでしょうか?何か物足りなくないですか?我々が一番知りたい内容って何でしょう?
そう!結局「どの施設が多く税金がかかっているのか?」の情報が無いのです。さすがにそれを比較する情報は市も出すのを渋ったのかもしれません。でもここまで情報を出してもらえれば、自分で比較して見ればいいのです。
次に「一般財源」、要は税金がどれだけ使われているかの比較をします。しかし初めにも述べましたが、目的は「税金がかかってる」=ダメという事ではありません。かかった税金に対して、「それだけの価値があるかどうか?」を考えてみる事です。ある意味一番多くかかった施設でも、内容がそれだけ税金をかける価値があると思えればそれで良いと私個人は思っていますし、その意見はみなさんバラバラであるはずなので、それが市に伝わるのが一番良いと思っています。
独自集計(一般財源)
それではまず単純に各施設の一般財源を、令和元年~令和3年までをグラフでまとめてみました。
「屋内スケート場」の一般財源が3年連続多くかかっています。これは先にも述べましたが「屋内スケート場」は光熱費が支出の約半分を占めていました。
これだけを見ると「屋内スケート場」「八戸ポータルミュージアム」が多く税金がかかっているだけに見えてしまいます。3億前後かかっているこれらの税金は、果たして単純に無駄な税金と言えるのでしょうか?
例えば「屋内スケート場」は経済波及効果についても述べられています。令和元年=約11億、令和2年=約1.1億、令和3年=約1.7億だそうです。コロナ禍でもこの数値なので、コロナが落ち着けばもっと数値は良くなるでしょう。
数値に見えない効果もあります。2023年は国体が行われます。2023年の国体は坂本花織選手、三原舞依選手、山本草太選手、織田信成選手など世界のトップアスリートが八戸に集結します。「屋内スケート場」ではありませんが、羽生結弦さんや浅田真央さんが「フラット八戸」でアイスショーを開催しました。「屋内スケート場」「フラット八戸」を合わせて氷都八戸をアピールできている結果だと思います。他にも「屋内スケート場」は世界大会の招致を進めているので、今後も世界大会が開かれる事も多くなりそうです。
また金メダリストの高木奈那さんが「屋内スケート場」でスケート教室に特別講師として来て頂いたこともありました。子供達に与える影響、これこそお金では表せない効果ではないでしょうか?
独自集計(利用者1人当たりの一般財源)
ここで少し視点を変えてみます。
「屋内スケート場」は一番税金がかかっていますが、利用者が多く、コロナ禍でも約13万人の利用者があるそうです。例えば税金が3億かかる施設に「年間13万人利用する施設」と「年間100人だけ利用する施設」、どっちが価値ありますか?と言われたら答えは明白です。
ここで一般財源を年間の利用者数で割ったグラフを出してみました。つまりは利用者1人に対してその施設がどれだけコストをかけたかを示す物になります。この数値が高い施設が結局「人気の無い施設」「有意義に使用されていない施設」という事になるのではないでしょうか?
割と顕著に傾向が出ています。
特に文化系の施設である「是川縄文館」「博物館」「美術館」が2~3億という多額の税金がかかる割には、多くの市民に利用されていない施設ということになりました。しかし「是川縄文館」「博物館」などは文化財を守るために必要な光熱費などが含まれています。「税金がかかるからこの光熱費を止める」というわけにはいきません。税金をかけないという事は貴重な文化財を放棄する事になってしまいます。見方次第で税金のかけ方が、良くも見えるし悪くも見えます。
このような結果を元に、1つ1つの施設を5段階で評価してみます。ここからはみなさんの意見が分かれる事でしょう。是非皆さんで考えてみましょう!
施設毎の評価
★の数で評価します。★★★★★が最高評価です。★が最低評価です。
長根屋内スケート場
評価:★★★★★
前述の通り、私の評価はかなり高いです。一般財源を一番多く使う公共施設ですが、「経済波及効果が高い」事が大きいです。令和3年までのコロナ禍のデータなので今後のデータに期待したいですが、一般財源より経済波及効果の額が上回る可能性があるのは、今のところこの施設だけに思えます。
ジュニアワールドカップが開かれる予定もあるとの事。八戸を「氷都」として印象づけ、国際大会誘致ができるまでになっているのは非常に誇らしい事です。
八戸まちなか広場(マチニワ)
評価:★★★★
コロナで閉館している期間のある令和2~3年は評価できないですが、令和元年は1日1610人の利用者がありました。公園のような施設なので人数がどこまで正確かはわかりません。しかし週末のイベントは多く、外からその賑わいが見える施設のため、人はよく集まっているように見えます。中心街が衰退する中、イメージ的に賑わいを印象付ける効果はあると思います。
施設の用途的に収入があまり見込めない施設です。例えば「公園」も収入は無いですが、「市民に価値が無いか?」と言われれば「価値はある」と答える人のほうが多いでしょう。中心街を活性化させるまでには至ってないですが、利用者がある程度いる状況であれば評価できる施設と言ってもいいのではないでしょうか?
八戸ポータルミュージアム(はっち)
評価:★★★
「はっち」と「マチニワ」で人件費を合わせて計上されていたため、評価が難しい所です。コロナ直前の令和元年で1日当たり2330人の利用者がありました。1時間当たり約194人(3人/分)になります。この人数であればある程度評価しても良いと思います。ただ計上方法によるのでしょうが、残念ながらそこまで賑わっている感じには見えないです。
展示施設というイメージが強く、近くに立派な美術館ができたのに「地域のミニ美術館」「八戸ミニ展示施設」の域を脱していないのは残念です。施設は「スタジオ」「映像編集」「キッチン」など色々スペースがあるので、用途は幅広いと思います。年間約3000件の利用がありますが、ほぼ常設している施設もその数に含んでいるとすれば、展示系以外の施設の利用状況はあまり多くないのではないでしょうか?ある程度市民に有益なものにはなっていると思いますが、比較的大きな施設であるという事を考えると、利用範囲はあともう一歩という感じです。
八戸総合保険センター
評価:★★★★
施設の用途的に、評価の良い・悪いはあまり出さないようにします。コスト削減する施設でもないですし、収入を増やすべき施設でもないので。ただ貸館施設もあるようなので、コロナが落ち着けば少し収入は増えるのかもしれません。
大規模な病院の隣に建ち、この近辺が医療地域として発展できたのは良かったと思います。コロナのワクチン接種や診察ではかなり機能しました。これだけ市民に役に立った施設を、税金がどうのこうのとは言えないでしょう。ただし個人的にここの場所は東北最大級の商業施設が建ち、八戸の商業が大幅に変わるチャンスのあった場所であるだけに、少し残念な気持ちが残っています。
八戸図書館
評価:★★★
★4つにするか迷いました。八戸市ほどの都市で図書館が無いなどありえない話ですし、市民に必要不可欠です。利用者は多く、先にまとめた「利用者1人あたりの一般財源」は高くなく、費用対効果はあると思います。そういう意味では★4つなのですが、全てに古く、アナログ感が否めないままなので、何か改善する余地がたくさんある施設に思えます。
八戸ブックセンター
評価:★★
私の評価はあまり高くありません。色々指摘所の多い施設で、書くと長くなってしまいます。
まず利用者がコロナ直前の令和元年で355人/日(約35人/時間)、令和3年で230人(約23人/時間)です。この人数であれば、利用者1人当たりの一般財源も高くはなかったので、まずまず利用価値はあると思います。しかし個人的なイメージですが、そこまで人が入っているように見えません。人数の計上方法をもう少し公表して頂きたい所です。
次に、この施設は維持管理費の高さが気になります。単純に金額が高いという意味ではなくて用途が問題です。通常公共施設は建設費の高さが非難を浴びる事が多いですが、この建物は賃貸です。なんと約1530万だそうです。中心街では当然の金額なのですが、賃料の高い中心街に建てたのであれば、それだけの効果が得られないといけません。「スケートリンクを維持する光熱費」「文化財を保護するための光熱費」とは違った、個人的にはあまり納得のしがたい維持管理費の高さだと思います。
最後にブックセンター建設当初から言われていた「八戸図書館」との位置付けの違いです。「なぜ図書館があるのにブックセンターを建てたのか?」はよく色々な所で指摘されてました。八戸市の説明はこういう事です。
ブックセンターは図書館とは違って私有して読む、そして「子供が集まって勉強する本を探す」という行動より大人向けの施設、要は書店と図書館の間。言いたいイメージは分かりますし、大人の本好きの方には魅力的な施設です。でもやはり中途半端なイメージで、書店と被っていますし、カフェと併設している似たような一般の書店もあります。これを「公共施設がやる事だったのか?」という疑問が拭えません。
最後に、何よりも収入の結果が出ていません。本だけの利益を見てみたいところですが、本の売り上げは1537万~2617万ですが、本の仕入れ費が「企画運営費」に混ざり詳細な利益がわからなくなっています。ただし説明で仕入れ費が約840万との事なので、おそらく利益だけで言ったら賃料にも達していないか、同等くらいなのでしょう。加えて人件費、イベント費で大きな赤字になっています。
このようなマイナスがあっても公共施設なので費用対効果があればいいのです。市が目的に掲げる「本を読む人を増やす」「本を書く人を増やす」「本でまちを盛り上げる」、果たしてこのような目的に沿うほどの効果が得られているかは、市民の方のご意見も伺いたいところです。
八戸市埋蔵文化財センター是川縄文館
評価:★★★
一番評価が難しいのがこの施設でした。1人当たりの一般財源が一番高い施設ですので、数値だけで見てしまうと最低レベルの評価かもしれません。つまり市民にあまり使われていないのに、税金は多く使われている施設と言う事になります。人件費も他の施設に比べて多めです。
しかし、維持管理費の多くは文化財を保護する電気使用量とのことで、これは避ける事ができません。仕方のない経費と言う事で評価を下げませんでしたが、1日当たりの利用者数が100人前後というのをなんとかしたい所です。イベントや社会科見学の人数が多い事が、「見える化」の中で説明されていましたが、逆に言うとイベントや社会科見学の利用者以外は少ないという事なのでしょう。
同じ北東北の縄文遺跡群では、三内丸山遺跡や御所野遺跡は、竪穴式住居など見どころのある遺跡を見る事ができます。是川縄文館も見る場所はありイベントなどを頑張っているようですが、北東北の縄文遺跡群として世界文化遺産に登録された割には物足りなさを感じます。三内丸山遺跡くらいの知名度になるためには、今の施設だけでは少し限界があるかもしれません。
八戸市博物館
評価:★★
是川縄文館と全く同じ系統で支出収入、利用者数も近いので、評価内容もほぼ近いです。「史跡根城の広場」など見るべき施設も是川縄文館より多いと感じており、立地場所も是川縄文館より良い場所にあるにも関わらず、利用者数はさらに少ないので、少し評価を下げました。ここも「史跡根城」を守るという役割があるので、無くすわけにはいかないのですが、「世界遺産」という期待値がある是川縄文館より、将来性は低く判断せざるを得ません。
八戸市美術館
評価:★?
ここだけ申し訳ないですが★1個の評価にしました。?が付いているのは、八戸美術館が令和3年11月に開館したため、5か月分のデータしかなかったためです。しかしたった5か月分のデータなのに「あれ?」と思うようなデータがたくさん出ています。
まず。維持管理費が異常に高いです。もう1回維持管理費のグラフを見てみましょう。
美術館の維持管理費は前述の通り5か月分です。次年度から美術館はこの値から倍増するのが確定しています。
市庁舎も多いですが、性質が全く異なるので除いて考えます。屋内スケートはリンクを維持するためという納得のいく理由があります。それを考えると相対的に美術館の光熱費は異常に高いのです。是川縄文館や博物館は「地元の文化財を守るための維持管理費」という事を考えれば、市民感情として「ある程度協力してもいいかな?」という感覚も湧いてくるかもしれません。しかし美術館に関しては地元の物ではないイベントに出店された物も多いです。展示するために必要な維持管理費であっても「市民に必要不可欠な維持管理費か?」と言われるとYESとは言えません。
さらに高騰している理由で不明な説明が、以下です。
収蔵品や展示品の適切な管理のため、24時間の空調運転・温湿度管理が必要となり、これに伴う光熱費及び、機器の保全を図るための委託料を要しています。
「美術品を管理するためには専門の知識が必要なため、外部に委託している」という事なのでしょうか?そうだとすると、是川縄文館や博物館よりも外部に委託するために相対的に高くついている事になります。
次に「利用者1人当たりの一般財源」も高いです。1日あたり135人の利用者です。美術館に関しては市民より市外の人の利用も多いので「利用者1人あたりの一般財源」で比較するのは適切ではないかもしれませんが、ただし「利用者が少ない割に税金が使われている」事実は変わりません。注目しているのはこれが「開館初年度」である事です。開館初年度であれば注目度が高く人は集まるものです。それでこの結果であれば、次年度以降はさらに利用者数は減るかもしれません。しかしコロナ禍で利用者数が少なくなっていたのであれば、次年度は増える可能性はあります。ここは今後の結果が公表されるのを期待したいと思います。
最後は「企画運営費が高い」事です。美術館のような施設はイベント費が高くなるのは普通です。しかし八戸市美術館はイベント抜きで考えた時、「この美術館が何をメインに展示しているのかわかりにくい」状況にあります。例えば青森県立美術館であれば奈良美智さんなど多くの作家の作品があります。鷹山宇一記念美術館は何をメインにしているのかは分かりやすいです。このような施設はイベントが無くてもある程度魅力が生まれるものです。しかし八戸市美術館はイベントが無いと注目度が得られないので、「イベントを常に考える必要がある=企画運営費は自然と高くなる」状況にあるのではないでしょうか?これはソフトよりハードを優先させて失敗する公共施設の典型例になる危険性を感じます。これも次年度以降で少し結果が見えてくると思うので、是非来年度も見える化を公表して頂きたいです。
最後に
いかがでしたでしょうか?最初に書きましたが、おそらくみなさん異なるご意見があるはずです。
コメント欄を設けました。自由にご意見を書き込んでください。多くの意見が集まれば八戸市にも届くかもしれません。
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